『時の子供たち(上下)』エイドリアン・チャイコフスキー/内田昌之訳/竹書房文庫
毎年刊行される早川書房の『SFが読みたい!2022年版』海外編第二位に輝いた作品です。
内容は地球の終わりを予測した人類は新たに惑星を改造(テラフォーミング)して地球の生物の知能強化を促すナノウィルスを散布し、猿を人類の後継者として人為的に進化させるという計画を立てる。
しかしその行為自体に反対する過激派の妨害により計画は大打撃を受けてしまう。
プロジェクトの責任者であるカーン博士は辛くも難を逃れる。
そしていつの日か救援隊が来ることを願い、救難信号を送り続けながら監視衛星ポッドでの人工冬眠に入る。
そこから2千年の月日が流れた。
襲撃により痛手を受けた人工進化プロジェクトは当初の猿ではなく、ウィルスま
ったく別の生物を強化。その生物は"蜘蛛"だった!
前半は旧人類たちの闘争。それに巻き込まれた科学者カーン博士の受難が描かれます。平行して惑星ではナノウィルスにより自意識を持ち始める蜘蛛たちの歴史が交互に語られます。
そして数千年が過ぎた頃に地球から逃れてきた人類の船が惑星に到達。衛星とコンタクトをとります。
しかし永劫の時を監視衛星で過ごしたカーン博士は静かな狂気に苛まれていました。
ここから旧人類と避難民、蜘蛛たちと物語は複雑に絡み合っていきます。
読みどころとしては蜘蛛たちの進化の過程が偽史として面白いこと。さらに意識が芽生えていくことにより独自の科学を習得したりと思わぬ方向に進む展開。実際の人類史と比較対象として読めるのも興味をそそられました。
非ヒューマノイドの思考というクラシックSFの味を楽しみつつ、蜘蛛の歴史や発展、人類側は避難船のサバイバルや軍事的なところもあり、多様な読み方ができます。
ラストの100頁はノンストップで、ページを捲る手が本当に止まりませんでした。
古きSFマインドを感じさせながら新しい息吹もある。これからの物語のあり方を感じさせる物語でした。
こういう作品を翻訳出版してくれる竹書房の編集者、水上さんには感謝です!