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2022年1月のおススメ

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三瀬 弘泰

『竜血の山』岩井圭也著/中央公論新社

今回はこちらを紹介させていただきます。

時は昭和13年

北海道の山奥で巨大な水銀鉱床を見つけるところから物語は始まります。

発見した鉱山技師は人が住んでいる筈もない奥地で年端もいかない少年を見かける。

なぜこんなところに?

男の子を探すうちに地図には載っていない村落を見つけ出す

なぜこんなところに?

そしてそこにいる村人たちは普通とは違った体質を持つ人々だった

戦前、戦中、戦後

そして高度成長期の公害問題

戦争に欠かせない"水銀"

朝鮮戦争などの特需による経済成長

水銀と巨大鉱床の山に魅せられた人々の栄光と哀しみの人間ドラマが骨太に描かれています。

この作品なのでいわゆる『社会派』とよばれるジャンルになるのでしょうか

私はSFやミステリー、伝奇アクションなどエンタメ要素の高い作品をよく読みます

正直この作品にそのワクワクするような展開はありません

なので『ここが面白い!』と声を大にして言うことはできません

しかし"水銀"という物質に囚われた人々が生きていく様子を目の当たりにするとその生きざまと愛憎の迫力にいつしか時間も忘れて読みふけっていました

読み終えたあとにやってくる深い満足感をぜひ皆さんにも味わっていただきたい

近作『水よ踊れ』も私の読書界隈でかなり評判が良かったようですのでこの機会に読んでみようと思います

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吉村弥恵

書名 『新しい星』

著者  彩瀬まる

出版社 文藝春秋

生きる道程で明けない夜を過ごした人は、電車の中で読まない方がよいでしょう。私は、マスクを目の際までずり上げて、泣き顔を誤魔化す羽目になりました。

そして、暗闇にいたとき、近しい人たちと何故会話がかみ合わなかったのか、その訳を知りました。

 

「新しい星に叩き落されたから」

 

異星間コミュニケーションは難しい。そういうことだったのですね。

 

本作は、大学時代、合気道部だった四人をそれぞれ主人公にした、八編からなる物語です。

子を亡くし離婚した青子、乳癌を患った茅乃、パワハラで辞職してから引きこもりの玄也と、コロナ禍で妻子と別居中の卓馬。十年余りの時をかけて、新しい星に独りぽつねんと立ち尽くしたり、それぞれの星から手を取り合ったりしながら、必死で「生活」を手放すまいとする四人を描きます。

合気道を通じ、技の癖や組み合う手など、ただの友情ではなく互いの身体を知り尽くした描写が効いていて、病で肉体が滅びる茅乃のターンが秀逸です。四人の中で、最も深刻な状況のはずの彼女は、元来の強さから、玄也曰く「悩みを小さく見積も」られてしまい、そのしわ寄せが娘の菜緒へと向かいます。

菜緒もまた母の病により、「新しい星」に落ちた一人なのですが、親世代と違い、しなやかに「自分の星」を作ります。そしてそのきっかけが、長きに渡り「新しい星」で卑屈に生きた玄也の言葉なのが、さながら人生のリレーのようでした。

 

手に取ったとき、夕暮れだと思っていた装丁は、読み終えて本を閉じたとき、夜明けになりました。

頁をめくる前から始まっていた読書は、今もなお余韻を残しています。

骨太でスケールの大きい作品が肩を並べた、今回の直木賞候補の中で、唯一日常に寄り添った物語でした。惜しくも受賞は逃しましたが、出会いに感謝する一冊です。

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