デジタル・ケイブの会員有志から、おススメ本をおひとりにつき1冊だけ、推薦コメントを頂き、会員有志に推薦コメントを読んでいただいて「自分はこれを読みたい」と思われた本に、投票していただく企画です。
今月のご投稿は6本でした。
最終回だからでしょうか、気合のこもった推薦コメント、皆様ありがとうございました!
では、発表と参ります~♪
面白そう♪と思われた皆さま、ぜひ手に取ってみてくださいませ。
第1位:『1話ごとに近づく恐怖百物語1 憤怒の恐怖』オガワメイ 他 日本児童文学者協会・編(推薦者:尼野ゆたかさん)
デジタル・ケイブの会員でもいらっしゃるオガワメイさんが参加されているアンソロジー。
子供が怖い話を読むのが好きってことは、自分の記憶を通しても分かることで。
小学校の図書室でも、ホラーテイストの昔話の児童書が物凄い勢いで回転していました。
(シリーズ名が思い出せない……表紙の右上で村人っぽい男の人が怖さレベルをジェスチャーで表示してくれていて、めちゃ怖いやつだと真っ青になったりひっくり返ったりしていた)
なので、「児童書」としてこういう怖い本が今でも人気なのは、うんうんそうだよね、分かるよ分かる! と嬉しくなります。何年経っても時代が変わっても、同じ所は同じなんだなあって。
何てことを呑気に考えながら読んだらぶったまげました。容赦がない! 本気で怖いものを書こうと取り組まれた作品ではありませんか! 子供泣いちゃうのでは……子供の頃の僕なら震え上がること間違いなしですし今でも十分おののいてます……。
お話は勿論ラストのイラストも怖い。「ええ~!?」じゃすまないですよ! 逃げてー!
我らがオガワさんの作品はどうかというと、普段のほんわか優しい雰囲気とはまったく異なるキレッキレのホラーをかましてくれます。短い中でびしりとキメてらしてお見事。参加作品が一本だけなのが残念!
いわゆる「超常現象」をギミックとして使っていないと取れる点にも唸りました。これをされると「いつか起こるかも」って不安を感じちゃいますよね……。各地で親切な男性店員が子供に避けられる事例が頻発してしまう。(こんな外見の店員さんはそういないから大丈夫かな……)
テーマが「憤怒」なわけですが、字面から受ける印象通りにばんばん撒き散らすのではなく、抑圧され煮えたぎる「首をぎゅっと締められるような」憤りが描かれているように自分は感じました。作風なのか、あえてのことなのか。その辺を一読者として深掘りしたいので、更なるご活躍を期待しております。
第2位:『千葉からほとんど出ない引きこもりの俺が、一度も海外に行ったことがないままルーマニア語の小説家になった話』 済東鉄腸(推薦者:村田秀人さん)
本作は、著者のルーマニア"語"愛と情熱に満ちた、「自伝」かつ「成長譚」かつ「独学指南書」です。
タイトルそのままの内容ではあるのですが、引きこもりとなったいきさつはサラッと流し、そこからのリスタートが描かれます。
鬱屈とした精神状態の中で読書という能動的な行動が出来なくなった彼は、受動的娯楽として映画鑑賞に没頭。過ぎ去る時間の中で焦りが生まれ、日本未公開映画の評論を書くことで自己表現が出来ないかと思い立ちます。先ずはTwitterからブログへ、そして運命的なルーマニア映画との邂逅。ルーマニア語における言語学的洞察を描いたその映画をきっかけにして、独学で習得することを決意。
しかし、日本国内で手に入る語学参考書は3冊のみ!
加えて日本にはルーマニア文学の翻訳家は、二人しかいない!
さらに追い討ちをかけるような難病の発症。
そんな逆境の中で、ネットを駆使し、人とのつながりを新たに構築しながら、多くの出会いに恵まれて「日本人初のルーマニア語小説家」となるまでが描かれる、終始その熱量にひれ伏すしかないノンフィクションエッセイ。
引きこもりとは、ただその状態を表している言葉であって、決して負の要素を意味するばかりではないと感じました。
独学で何かを身につけたいと考えている人にも、背中を押してくれる、おすすめの一冊です。
第3位(同率):『プロトコル・オブ・ヒューマニティ』長谷敏司 (推薦者:十三不塔さん)
交通事故で右足を失ったダンサーの再起が、家族との葛藤や、ダンスという営為への問い直しとともにじっくりとかつ淡々と描かれる。SFというジャンルから想像されがちな派手な展開はなく、近未来のさほど現代と変わらぬ環境の中で、肉体に囚われる苦しみと愉悦をさまざまに感じ取りながら主人公の講堂恒明は未知のダンスを模索していく、この過程は重苦しく絶望的ですらあって、軽々しくおススメできる作品ではない。
そう、片足を失った主人公が、認知症になっていく父の介護をするシーンは重苦しく切ないし、心の通じない兄の無情さにげんなりさせられる。ただし一方で、彼のもとへ差し込む多くの光があることで、この作品はクライマックスにおいてむしろ祝祭的な軽快さを獲得する。
なのでラストまで頑張って読んで欲しい。最後の父とのダンスセッションには素晴らしいカタルシスがある。
これは極めて人間的な再生の物語だが、それだけにはとどまらない。身体とテクノロジーのきわどい接点の物語でもある。
ここ数年で著しく発達した人工知能というものが、人間の身体や暮しの中でどのようなポジションを示すのか。欠損した身体とそれを補うAI搭載の義足との関係はこの物語のもうひとつの軸だろう。この作品には、統計や検索といった情報論的なアプローチだけではなく、より身体的でダイレクトな示唆を得られるはずだ。
人とテクノロジーの新たな関係は、人間同士の接点にも変化を及ぼすだろう。
人間と道具、家族と社会、芸術と娯楽。
それらの間に横たわる境界線だと思っていたものが幅と厚みをもったゾーンだったということに気付かされる、それは深遠で楽しい発見となるに違いない。
この時代に迷いなく手に取るべき一冊だろう。
第3位(同率):『フィールダー』古谷田奈月(推薦者:まかさん)
児童福祉の専門家の黒岩が子どもに『触った』という疑惑。それを守ろうとする担当編集の橘を軸に物語は進む。
橘はオンラインゲームを息抜きとしているが、そこでのプレイヤーとしての立場はヒーラー。オンラインゲームでも誰かを癒している。
そこで知り合ったものを、かわいいと思う。
黒岩の疑惑の対象にも黒岩はかわいいと思う。
猫を溺愛しかわいがる者も出てくる。
かわいいは正義。という言葉も聞かれるが、本当にそれだけで許されてしまうのだろうか。暴力性を孕んだ、一方的な搾取だったりしないのだろうか。
リアルな社会とオンラインという架空の社会。しかしどちらも現実だ。
それらが混じり物語は混沌としていく。
社会問題は日常のそこにある。けれども見ないようにしている人は多い。見ないだけで、在る。それを描くのがうまい古谷田さんの久しぶりの新作長編は読み応えがある。
小児性愛、児童虐待、ルッキズムやソシャゲ中毒などが盛り込まれ、複雑に絡む。
物語はどう収束するのか。
だれもが当事者なんだ。という作者の叫びが聞こえるようだ。