会員有志から、おススメ本をおひとりにつき月に1冊だけ、推薦コメントを頂き、会員有志に推薦コメントを読んでいただいて「自分はこれを読みたい」と思われた本に、投票していただく企画、第5回です。
今月のご投稿は4本でした。そして、投票が二作に集中する結果となってしまいました。
では、発表と参ります~♪
面白そう♪と思われた皆さま、ぜひ手に取ってみてくださいませ。
次回の開催は6月となります! 会員の皆さま、面白い本を読んだらぜひおすすめを~♪
第1位 『六人の嘘つきな大学生』(浅倉秋成/角川書店) 推薦者:十三不塔さん
本作は、SNSサービスを提供する先進的な企業に就職したい六人の大学生の姿が虚構と真実を織り交ぜつつ描かれます。
奇妙に入り組んだ採用試験の最中に起こった事件が前半にあり、その解明が後半部分に置かれているのですが、他者を蹴落とす競争意識と六人が持つ醜悪な過去を読者はぞんぶんに見せつけられます。若さゆえの痛々しさもたっぷり。
ミステリなのでネタバレはできませんが、後半になるとすべての読者がパースペクティヴが反転する瞬間が起こります。これは静かで感動的なカタルシスです。
筋立てはこうです。この企業の試験は、グループミーティングのあと、皆が自分以外の誰かに一票入れること。最多票の人間が合格。自分以外の人間に利する投票をせねばならないミーティングの中でひとつの封筒が見つかる。その中には六人の過去の悪行が詰め込まれている。このパンドラの箱を解き放つことで試験の行方は予想もしない方向へとズレていく。
後半は、件の試験から時間が経ち、社会人となった当時の面々を合格者が訪ねるパートとなっています。殺人も探偵もいないこの作品世界で、合格者である彼あるいは彼女といっしょに読者は取りこぼしていた事件の真相に近づくことができます。
ここらでようやく水面下にあったテーマが一気に浮上します。
つまり人が人を選ぶということです。
採用試験や面接、コンテスト、オーディションなど。ひとりの人生を変えてしまうほどの裁定があまりにも軽々しく為されていることに寒気が走ったことはないでしょうか。もちろんいくら注意深くあったところで神さまや機械でもない我々が完璧を期すことは可能なのか。
就職活動というある種残酷なモチーフを使いながら、とびきり面白く、心に響く物語。それが『六人の嘘つきの大学生』です。
読後に誰かと語り合いたくなるパワーも格別。是非読んでみてください。
第2位 『時の子供たち(上下)』(エイドリアン・チャイコフスキー/内田昌之訳/竹書房文庫) 推薦者:三瀬弘泰さん
毎年刊行される早川書房の『SFが読みたい!2022年版』海外編第二位に輝いた作品です。
内容は地球の終わりを予測した人類は新たに惑星を改造(テラフォーミング)して地球の生物の知能強化を促すナノウィルスを散布し、猿を人類の後継者として人為的に進化させるという計画を立てる。
しかしその行為自体に反対する過激派の妨害により計画は大打撃を受けてしまう。
プロジェクトの責任者であるカーン博士は辛くも難を逃れる。
そしていつの日か救援隊が来ることを願い、救難信号を送り続けながら監視衛星ポッドでの人工冬眠に入る。
そこから2千年の月日が流れた。
襲撃により痛手を受けた人工進化プロジェクトは当初の猿ではなく、ウィルスま
ったく別の生物を強化。その生物は"蜘蛛"だった!
前半は旧人類たちの闘争。それに巻き込まれた科学者カーン博士の受難が描かれます。平行して惑星ではナノウィルスにより自意識を持ち始める蜘蛛たちの歴史が交互に語られます。
そして数千年が過ぎた頃に地球から逃れてきた人類の船が惑星に到達。衛星とコンタクトをとります。
しかし永劫の時を監視衛星で過ごしたカーン博士は静かな狂気に苛まれていました。
ここから旧人類と避難民、蜘蛛たちと物語は複雑に絡み合っていきます。
読みどころとしては蜘蛛たちの進化の過程が偽史として面白いこと。さらに意識が芽生えていくことにより独自の科学を習得したりと思わぬ方向に進む展開。実際の人類史と比較対象として読めるのも興味をそそられました。
非ヒューマノイドの思考というクラシックSFの味を楽しみつつ、蜘蛛の歴史や発展、人類側は避難船のサバイバルや軍事的なところもあり、多様な読み方ができます。
ラストの100頁はノンストップで、ページを捲る手が本当に止まりませんでした。
古きSFマインドを感じさせながら新しい息吹もある。これからの物語のあり方を感じさせる物語でした。
こういう作品を翻訳出版してくれる竹書房の編集者、水上さんには感謝です!