会員有志から、おススメ本をおひとりにつき月に1冊だけ、推薦コメントを頂き、会員有志に推薦コメントを読んでいただいて「自分はこれを読みたい」と思われた本に、投票していただく企画、第3回です。
今月から、「半年以内に刊行された本」という縛りを、「ネット書店などで今でも購入可能な本」と緩く変更したところ、初投稿の方が複数参加されました♪
今月のご投稿は5本でした。
ではいよいよ、結果発表と参ります~♪
面白そう♪と思われた皆さま、ぜひ手に取ってみてくださいませ。
第1位 『新しい星』(彩瀬まる著/文藝春秋) 推薦者:吉村弥恵さん
生きる道程で明けない夜を過ごした人は、電車の中で読まない方がよいでしょう。私は、マスクを目の際までずり上げて、泣き顔を誤魔化す羽目になりました。
そして、暗闇にいたとき、近しい人たちと何故会話がかみ合わなかったのか、その訳を知りました。
「新しい星に叩き落されたから」
異星間コミュニケーションは難しい。そういうことだったのですね。
本作は、大学時代、合気道部だった四人をそれぞれ主人公にした、八編からなる物語です。
子を亡くし離婚した青子、乳癌を患った茅乃、パワハラで辞職してから引きこもりの玄也と、コロナ禍で妻子と別居中の卓馬。十年余りの時をかけて、新しい星に独りぽつねんと立ち尽くしたり、それぞれの星から手を取り合ったりしながら、必死で「生活」を手放すまいとする四人を描きます。
合気道を通じ、技の癖や組み合う手など、ただの友情ではなく互いの身体を知り尽くした描写が効いていて、病で肉体が滅びる茅乃のターンが秀逸です。四人の中で、最も深刻な状況のはずの彼女は、元来の強さから、玄也曰く「悩みを小さく見積も」られてしまい、そのしわ寄せが娘の菜緒へと向かいます。
菜緒もまた母の病により、「新しい星」に落ちた一人なのですが、親世代と違い、しなやかに「自分の星」を作ります。そしてそのきっかけが、長きに渡り「新しい星」で卑屈に生きた玄也の言葉なのが、さながら人生のリレーのようでした。
手に取ったとき、夕暮れだと思っていた装丁は、読み終えて本を閉じたとき、夜明けになりました。
頁をめくる前から始まっていた読書は、今もなお余韻を残しています。
骨太でスケールの大きい作品が肩を並べた、今回の直木賞候補の中で、唯一日常に寄り添った物語でした。惜しくも受賞は逃しましたが、出会いに感謝する一冊です。
第2位 『アダムとイヴの日記』(マーク・トウェイン著/河出文庫) 推薦者:藤井博子さん
アメリカの国民的作家マーク・トウェイン。ちょっとおふざけな彼が旧約聖書をもとに、「もし、アダムとイヴが日記をかいていたら。覗いてみたいでしょう~。」ってなノリで書かれた一冊。
本書に集約されている「アダムの日記」と「イヴの日記」は当初、別々に書かれております。
そちらを一冊に纏められたものなので、同じシチュエーションで双方がどんな日記を書いていたかという記述ではございません。
【アダムの日記】
月曜日
なんだか別の生き物がやってくる
火曜日
その生き物は、おしゃべりでアダムの邪魔をする
などという、ほとんど覚書で、新しい生き物が邪魔で、迷惑で、そして冷たくあしらうと奴は顔の穴(目)から水を流す。
魚がかわいそうで一緒にベッドで寝てあげたんだけれど、なんだかべとべとしているし、魚は次第に元気を失った。
そして、また増えた新しい生き物(赤ん坊)が何か不明水辺の生き物かと水に返すと沈んでしまった。
アダムは迷惑千万ながら、真摯な対応と純粋さをユーモラスに描きあげられております。
【イヴの日記】
よくぞここまで理解されていると思われるほど、女性心理を突いた描写であり、そして、日記形式ではなく、自叙伝のような形式。
イヴにとってみれば、よかれと思って行動しているのであるが、先出の「アダムの日記」でアダムは戸惑っている事を知っていしまっている読者は、ハラハラしてしまいます。
永遠に理解できないであろう異性。
ラストはホームドラマのような爽快感に包まれ、このような作品を生み出したマーク・トウェインとはどのような生涯を送り、どのような考えの方だったのか、まだまだ読書に対する好奇心がムクムクと湧いてくる作品でした。
第3位 『ミカエルの鼓動』(柚月裕子著/文芸春秋) 推薦者:早川隆さん
直木賞候補にもなっている作品ですね。柚月さんといえば、「虎狼の血」。かなりダイレクトな描写の警察・犯罪小説の書き手みたいな印象強いですが、本作は医学ミステリー調の、実はパリッとした医療倫理小説です。
最新鋭の遠隔手術システム「ミカエル」を駆使するエキスパート医師と、ブラックジャックばりのアナログスキルを誇る天才医師との宿命的な対決。彼らを煽り、裏で保身と利益確保のために蠢く魑魅魍魎ども。そしてそのはざまに置かれた幼い命。
と、まあ、王道ともいえる舞台設定で、ストーリー展開も大きく予想を外すものではありません。また、わずかに食い足りない点とか、消化不良に思えた部分も、ないことはない。
しかし、そうした小さな瑕疵(?)など吹っ飛ばして、迷いのない堂々たる筆致で語られる物語は、ひたすら読み手の心をわし掴みにし、一気に終盤に向けグイグイと加速していきます。これぞ王道。間違いのない良質な倫理小説です。
どんな人であろうと、この物語を読み終えたあとは、背筋を正し、シャンとして自分の仕事にそして人生に向き合おうとするでありましょう。私もそうです。年頭に良い読書をさせていただきました!