デジタル・ケイブ、新しい企画を始めました!
会員有志から、「みんなに読んでもらいたい」というおススメ本を、おひとりにつき月に一冊だけ、推薦コメントを頂きます。その後、会員有志に推薦コメントを読んでいただき、「自分はこれを読みたい」と思われた本に、投票していただきます。
お気づきのとおり、文章による「ビブリオバトルもどき」です。
今回、慣れない初の試みに果敢に参加してくださった会員さんは、おススメコメント参加が5名様、投票参加が12名様でした。ご参加くださった会員の皆さま、ありがとうございました!
そして、蓋を開けてみると一位が私の本になるという、なんだか申し訳ないことになってしまいました。こういうこともありうると先を読まないといけなかったんだけど、私の配慮が足りませんでしたね。来月からは、「福田和代の本を上げるのは禁止」というルールを追加しておきますね(^^;
では、結果発表とともに、いただいた会員さんからの推薦コメントを掲載いたします。
第一位 『ディープ・フェイク』(福田和代/PHP出版社) 推薦者:早川隆さん
私は黎明期からのインターネット業界出身者であり、しかもここ数年は、ソーシャルメディア上における風評被害対策やら炎上対策やらにも関わり、かなりこの作品のテーマに近いところでのリアルな事例を見聞きしてまいりました。しかしいずれの事例も、煎じ詰めればかなり単純な動機や安直な思い込み、勘違いなどに起因するものが多く、小説のプロットにそのまま使えるような、徹底的に邪悪だったり、巧緻だったりするものは少なかったように思います。
ところが、この作品で語られるトラブル(というか一方的な攻撃)は、あまりにもリアルなため、明日にでも現実に起こってしまいそうな気がします。いや、それのみならず、他ならぬこの我が身に降りかかってくるような気すら・・・!
作者の福田和代先生は、持ち前の徹底したリサーチ力を存分に発揮し、異様に生々しい「悪意の世界」を描き切りました。それは、アナログな悪意がデジタル化され、匿名化されることにより発生する、あまりにも現代的な恐怖であるわけですが、しかしそうした悪意を駆逐するのは、つまるところ生身の人間同士によるアナログな信頼と紐帯であるという部分に、この作品の今日的な価値があると思います。
怖い小説ですが、読み終えたあと、どこか満たされた気分になるのは、作者の、こうしたポジティブな「人間に対する信頼」があるからでしょう。おすすめです! (推薦者:早川隆さん)
第二位 『ものがたりの賊』(真藤順丈/文藝春秋) 推薦者:村田秀人さん
時は大正12年9月1日11時58分32秒。最大震度7、マグニチュード7.9の巨大地震により帝都東京は壊滅した。崩壊した治安と人心の不安に乗じて帝都を混乱に陥れようと暗躍するテロリスト集団。不気味に暗躍する軍部。
これらに対抗するのは……
作者不詳『竹取物語』より竹取の翁!
紫式部『源氏物事』より六条院(光源氏)!
泉鏡花『高野聖』より聖(ウィッチ)!
川端康成『伊豆の踊子』より薫(踊り子)!
中島敦『山月記』より李徵(虎)!
中里介山『大菩薩峠』より机龍之介(剣士)!
夏目漱石『坊ちゃん』より坊ちゃん(無鉄砲)!
【血の恩寵】という秘術で不老の身体となった7人は、テロリスト集団の【不死鳥計画】から、東京を、いや日本を救うことが出来るのか。
物語の中で随所に見え隠れ、すれ違う人々も日本文学の名作の登場人物。
115点に及ぶ注釈&原典解説を参考に読み進む、真藤節アクションエンターテインメント。
タイトルしか知らない小説の登場人物が出てきても、読んでいない作品の引用が出てきても大丈夫。本好きならニヤリとしてしまうこと間違いなし。
個人的には李徵のカッコ良さにしびれ、真の首謀者の設定に驚き、ラストの仕掛けに感動しました。
尚、注釈はQRコードからのリンクから、まとめてPDFをダウンロード出来るので、注釈の表示はスマートフォンに任せてしまうことで、忙しく本をめくり直すことなく読み進めることが可能となっています。
オススメです。 (推薦者:村田秀人さん)
第三位(同点) 『後悔するイヌ、嘘をつくニワトリ 動物たちは何を考えているのか?』(ペーター・ヴォールレーベン、本田 雅也訳/早川書房) 推薦者: 尼野ゆたかさん
実家で犬を飼っていまして。僕が帰る度に尻尾をぶんぶん振って飛びついてくれます。
ああ、本当に喜んでくれてるんだなあと思っていたのですが、それはちょっと甘かったのもしれません。
犬は言いつけを守れず飼い主に叱られた時、後悔と反省の表情を顔に浮かべます。
そこである科学者が、実験として言いつけを守れた犬を飼い主に叱ってもらったところ、犬はやっぱり同じ表情をしたそう。
結論として示唆されるのは、「犬は、叱られている場面で飼い主が期待する表情を後天的に学んでいるのでは?」という事実。
!? それって打算であって後悔ではなくない!? タイトル詐欺!?
実家の犬も「このたまに来るひょろい人間は、尻尾を振ってみせればキャベツをくれる。ちょろいものよ」とか思ってるの!?(※実家の犬はキャベツが大好き)
そんな感じで、この本は「動物達の考えていること」を教えてくれます。
相方の隙を見て浮気する鳥もいれば、ずっとつがいを変えない(たとえ相方が撃たれて死んでも!)鳥もいる。
労働に喜びを見出す馬、他の仲間が冬のために埋めた餌を奪うリス(そのため、リスの中には他の仲間が見ていることに気づくと餌を埋めたように偽装する種もいるそう)。
科学的な事実と筆者の経験とを元に語られる動物の内面のゆたかさ、多様さには驚くばかり。
筆者の視線には動物への愛情が溢れていますが、一方で犬猫の品種「改良」や、餌やりを前提として育まれる関係の正当性など、ペット愛好家が思わず目を背けがちな点にもしっかり向けられています。
手放しで動物を天使扱いせず、一方で「犬っころ」みたいに見下すのでもなく、尊重しているのですね。なるほどと考えさせられました。
ちなみに筆者は、冒頭の「後悔するイヌ」についても「申し訳なさを装っているとは言い切れない」と助け船を出してくれています。
はてさて実家の犬の本音はどこにあるのやら。今度帰った時はよくよく観察してみなければ。(推薦者: 尼野ゆたかさん)
第三位(同点) 『目の見えない白鳥さんとアートを見にいく』(川内有緒/集英社インターナショナル) 推薦者:水野さちえさん
ノンフィクション作家の川内有緒さんが、全盲の美術鑑賞者、白鳥建二さんや友人たちと、全国各地の美術館やアートスポットを巡るお話です。
「目が見えない人が美術作品を『見る』って、どうやって?」と思いますよね。白鳥さんの鑑賞スタイルは、目が見える同行者に「なにが見えるか教えてください」と聞き、同行者たちの言葉を通じて「見る」というものです。
見る作品は現代アートから印象派、仏像まで幅広く、同じ作品の前にいても、同行者たちの見かたや感じかたはさまざまです。白鳥さんと一緒に見るとき、皆さん割と直感的に、ポコポコと言葉を発します。見かたの違いを面白がったり、「いかに見えていないか」という気づきを得たりもします。印象派の作品展をアテンドした美術館スタッフは、白鳥さんと見ることで初めて、それまで何度も見てきたはずの作品で描かれているものが、「湖」ではなく「原っぱ」だと気づいたといいます。
鑑賞の記録だけでなく、白鳥さんや川内さんの人生の振り返りや、障害のこと、差別のこと、日々のできごとなど、話はあちこちに飛んでいきます。読みながら「え、次はどこに行くの?」と、一緒に旅をしている気持ちになりました。とても軽やかに読めます。白鳥さんがなぜ美術鑑賞者になったのかも、徐々に明らかになっていきます。
話はあちこちするものの、私は直球の問いを受け取りました。「あなたは何を見ていますか?」という問いです。読後2か月ほど経つ今も、時々ぼんやり考えます。もちろんこれは受け取りかたのひとつにすぎず、人それぞれ、いろんな読みかたができると思います。アートを見る時と同じように。
ちなみに本書は現時点、電子書籍の設定はないようです。紙の本のみ。中身はもちろん、思わずなでなでしたくなるカバーの感触や、これまたカバーの、裏にどん!と描かれた仕掛けが楽しめます。カラー写真もたっぷり。ぜひともお手にとって、味わってほしい一冊です。 (推薦者:水野さちえさん)